インタビュー

20141027_IMG_7676_HH すまい研究室が実際に家族で暮らしながら考えた、マンションリノベーション「maru(まる)」。
代表の丹羽洋文さんと、一緒に暮らしている理津子さんのご夫妻に、maruについてのお話を伺いました。

聞き手:三迫太郎/写真:濱田英明、丹羽洋文



maruのはじまりのこと


― 最初に、そもそもなぜmaruを始めようと思ったのか、お聞きしたいです。これまですま研は戸建ての住宅などの建物を作られてきたと思うのですが、何がきっかけでリノベーションを考えることになったんでしょうか。

丹羽理都子(りつこ):家といえば戸建てというイメージがありますが、戸建ては施主にとって大きなイニシャルコスト(初期費用)がかかります。マンションに比べるとぜんぜん、値段が変わってくるんで…。そういう所で、リノベーションで、定額制で、「こんなものが出来る」とはっきり打ち出して売れたら、施主さんも頼みやすいかなと思ったのが一つですね。
 で、もう一つは買い手側としても、これだけ住宅の空き家率が高くなってきていて、それでも新しい物件は供給されてきますけど、やっぱり中古住宅の今までのストックの活用がこれから必要になってくるし、して行かないといけなくなるという思いもありました。
 あと、価格的な面では個人の平均収入がどんどん減ってきてて、これからすぐに上がっていく、みたいな雰囲ではない中で、新築って高すぎると思うんですよね。もう、30何年ローンとかでその人の人生を固定してしまうぐらいの迫力のある額なので。そういうのはできるだけ、価格的に抑えないとあかんやろうと思ったんですよね。そのときに戸建てじゃなくて、やっぱりマンションの方が、流通性も高いし、価格も安いし、ある一定の性能で持って建てられているものが多いし…


― 規格がはっきりしているというか。

りつこ:うん。地盤が緩かったらちゃんと杭を打ったりしてるし、普通戸建てでそこまでやってるところってあんまり無いじゃないですか。で、メンテナンスも大規模修繕とか定期的に入ってちゃんと管理されているんで、中古の戸建よりは中古のマンションの方がいいと思います。
 で、中古やったらマンションやと。でも、マンションにそのまま住むのは「ないな」っていう。その、設備も古くなって来てるし、既製マンションの素材とか間取りとかはあまりにもチープなんで、そこは変えたい。というときに、やっぱりリノベーションやな、と。

丹羽洋文(洋文):そうやな。で、試したいこととか提案したいことを盛り込めて、かつ自分たちぐらいの世代でお金が出せる範囲っていったらやっぱり、ある程度安くないと。そういう方向でお客さんの視点とも合うし、安いんだけれども丁寧に作るっていう方向で提案したかったんでマンション…ということやね?

りつこ:そうやね。で、何でもできる自由度の高いリノベーションっていうのもあると思うんですけど、すまい研究室として人の生活を突き詰めていくと、もうちょっとシンプルでいんじゃないか、という思いがあって。デコレートしていくところとか、自分色に染めていくところはいくらでも後で出来るところなんで、「素地の部分」をしっかりしたリノベーションが作りたいよねっていうことで、maruが生まれました。

洋文:そうそう。きっかけはそういう所ですね。


― 「素地の部分」っていうのは具体的にどういうところでしょうか?

洋文:maruで想定しているのはコンクリート造の中古マンションなので、めくっていくとコンクリートがむき出しになって、壁も床も天井も全部その状態じゃないですか。マンションの構造を見ているという意味では、それが一番「マンション自体」でもあるんですよね。
 で、あとはクロスを貼るための下地だとか、床がコンクリートだと裸足でいられないので床材を貼るための下地だとか。それに付け足していかなあかん部分があるんですけど、まあほとんどが躯体(くたい)というコンクリートの部分を無視して隠してしまって、お化粧的に作ってるっていう作り方が一般的です。
 僕たちはそうじゃなくて、マンション自体のコンクリートっていうものを「素材」として扱った方が素直に思えて。ウソが無いというか。まあアカンところも出てくるんですけど。


― アカンところはどうするんですか?(笑)

洋文:アカンところは程度に応じて「ちょっとひどいな」という部分は隠してしまったりもしますが、少々の粗さは許容して「こういうもんだから」ということで、例えば元からあるちょっとした穴とか、配管のルートなんかも全部そのまま使って、空間の味としています。全体のまとまりとして良くなればいいな、という感じですね。

モデルルーム兼すまい研究室オフィスのリノベーション中の様子。コンクリートや配管がむき出しに。

りつこ:うん。構造が見えてる方が安心できるっていう心理的なものもあるし、天井が抜ける分も高さを稼げるという意味もあるし、「何がどうなってこの家ができてるのか」っていうのが目で見て分かる。水漏れなんかが起きても、どこから漏れてるのかすぐ分かるようなメンテナンス性の高さっていうのもあると思うんですよね。
 簡単な作りだからこそ、自分たちで手を加えていける。例えばシステムキッチンだったらここに穴一個開けて何かぶら下げようと思ってもビスの効く所、効かない所っていうのがあるし、穴を開けたらいけないような雰囲気をしてるじゃないですか。maruの作り方だと、自分たちで色々手を加えていけるし、後から棚をもう一個作ろうかな、とか、やっぱり扉を付けたいな、とか。どんどん対応していける形にできたなと思っています。

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穴を開けても良さそうな素材感。

― それはお二人の言われている「身の丈に合った暮らし」という考え方に合っていると思いました。

りつこ:そうですね。



余計な物のない、シンプルなすまい


― maruの特徴的なことについても伺ってもいいですか。

洋文:構造を全部オープンにしているので、それと同じ考え方、例えばキッチンを考える時も同じような感じで。開放的というか、余計なものが無いというか、オープンならオープンとやり切ってしまおうというコンセプトで調理台とか作業台についても同じようなフレームで作りを合わせて、素材も同じものを使っています。

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キッチン、作業台、食器棚(上)、廊下の引戸まで同じ素材で揃えて統一感を出している。

 既成の家だと同じ空間の中にいろんな木、樹種があるじゃないですか。それに色を塗って同じように見せることも出来るんだけど、微妙な差が出てくるので、maruでは全て同じ素材(米松)を使って、トータルで見た時に違和感がないように作りました。これは一度全部壊して作り直す、リノベーションのメリットなのかなと。
 「開放的」とか「簡素」とかいうキーワードで全体を構成したいというのは一見、住み手の自由を奪っているようにも見えるけど、逆に暮らしながら手を入れる余地があっていいんじゃないのかなって。「あれこれ用意して、これ以上さわれない」だと、あとから条件が変わってしまったりして、「もっとこうだったらいいのに」とか、使いにくかったりすることもあると思うんですよね。
 暮らしっていうのは変わっていくものなんで、変わっていくことを前提として、あまりこちら暮らしを押し付け過ぎないような、住み手にフィットする、そんな場所を目指しているんです。


― 簡素にするということである程度、どんな人が住んでも対応できるんですね。

洋文:お客さんからしたら、標準仕様が決められてたら「選べないの?」って思うと思うんですよね、たぶん。
 「何でも自由に選べる」ものが多い中で、標準仕様が決まってて、選べるところが少ないっていうのは一見、自由度は無いの?って思われてしまうかもしれないけど、そこはやっぱり僕らが設定した条件というのは「すまい研究室」なりに「研究」してますから(笑)。プロとして「私たちの提案する暮らしはこうです」という、最小限に抑えた提案なので、あとは家具とか布(ファブリック)で部屋を飾っていくとか、自分で棚を付け加えたりとか、自由に楽しんで欲しいですね。


― 何でも出来ますよっていうのはある意味、何も提案していないことにもなりますよね。

洋文:お客さんにとっては一見耳障りがいいかもしれないけど、予算がありますし都合のいい言葉だと思うんですよね。プロとしては選んであげることが仕事だし、責任だと思います。



変えられるすまいの形


― そうした意味では自由に配置が変えられる「すまいユニット」は自由度がある部分ですね。

洋文:そうですね。maruでは対象となるマンションは75平米前後を前提としていて、まず全体を大きなワンルームに改装します。そこに標準仕様で「四畳半タイプ」「三畳タイプ」が1つずつ、「押入れタイプ」、ハンガーパイプ付きの可動棚がついた「クローゼットタイプ」が2つずつの、合計6つの「すまいユニット」が入る形になります。
 これを手で押してブロックやパズルみたいな感じでくっつけたり離したりしながら、隙間の部分を作ったり、合わせて7畳半にしてもいいし。ひとつの空間を作ってそこにコーナーを設けていくと、そこに開放感とか部屋としての気配が生まれます。あれこれ試しながら、楽しい暮らしにして欲しいですね。

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すまいユニット「四畳半タイプ」「三畳タイプ」を並べて7畳半にした様子。モデルルームでは和室、寝室として使っている。

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部屋をユニットで区切ることで、開放感を残しつつ部屋としての機能も。

― 間取りを最初から全部区切ってしまうんじゃなくて、自由に動かせるっていうのが「maru」の楽しさなんですね。

りつこ:そうですね。すまいに自由に手を加えていくこと自体がまず楽しいんじゃないかなと思うんですよね。



暮らしながら考えたこと


― モデルルームで実際に暮らしながら追加した仕様はありますか?

洋文:「なげし」ですね。道具とか、いつも使うものを掛けておけるし、色々掛かっているのがインテリアとしての雰囲気もあって楽しいなと思って標準仕様に追加しました。

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― ここになげしがあると、飾りたくなるような道具を使いたくなりますね。ここにプラスチックのちりとりが掛かってたら、ちょっと違和感がありそうです。

りつこ:そうですね(笑)

洋文:確かに。気を遣うと、いろんなものを選んでみようかな、ちりとり一つでもかけるとなったらちょっと選びたいなっていう感じになるし。リノベーションでコンクリートの素地が出てくると、気軽に押しピンなんかも押せないから、そういうときに一本通っていると使いやすいんじゃないかなということで、他の部分と揃えた米松を使っています。

りつこ:あと、手を加えたと言えば、「すまいユニット」に布をかけたり、ふすまを作ってみたり。

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すまいユニットに追加されたふすま。右側には間仕切りにも使える布が、風に揺れていました。

洋文:そうそう、紺色のふすまを建具屋さんにお願いしました。モデルルームでは2枚のふすまなんですけど、実際に試してみると重くて扱いが難しいのでお客さん用の標準仕様では3枚にしました。
 あと、照明はけっこう数があると思います。標準仕様ではレールが天井にあって、移動できるスポットライトが何個か付いてるんですけど、それはぼやっと壁を照らして全体的に明るくするためのもの。あとは自分たちでレイアウトに合わせてフロアライトを追加したりしています。ちょっと暗いかもしれないけど、必要なところに明かりがポツポツとあるぐらいが雰囲気としてはいいんちゃうかなと。そういう照明は結構置いてますね。

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お気に入りの照明や家具を配置して、すまいに個性を。



風が通り抜け、家族の気配を感じるすまい


― maruの特徴の一つ、通気性についても聞いてもいいですか?

洋文:マンションって元々、密閉性が高いんですよ。古い物件でもサッシを閉めると割とピタッと閉まるんですけど、maruの設計のコンセプトとしては、なるべく風が通っている方が気持ちいいんじゃないでしょうか?という考え方になっています。
 窓を閉めて部屋に篭って、暑かったらエアコン入れたらいいやん、ということではなくて、自然の風の気持ちよさを理解できる方がいいんじゃないかなと。構造としては広いワンルームなので、玄関などいろんな場所を開放的にして風が通っても遮るものはない、そういう風に作っています。

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― それと「気配」という要素もキーワードになっていますよね。

洋文:はい、通気性がいいですし、「すまいユニット」は上部が空いているので、常に家族の気配を感じながら暮らすイメージです。映画とかを大音量で観るのが難しいかもしれないですし、ここで夜遅くまで仕事してたら不便なところもあるかもしれないですけど、そこは目をつぶってというか、家族の暖かさを感じるために半分諦めている所がありますね。


― モデルルームを拝見して、イメージ的には東南アジア辺りの生活というか、日本もそのエリア(亜熱帯)に入りつつあるなと思うんですけど、そういう場所の住居のイメージなのかな、と思いました。外と中の境があいまいというか。

りつこ:そうですね。「夏を旨とすべし」ですね(笑)

洋文:「すまいユニット」のフレームが無い場合を想定してみても、すごくスッキリとはしてるんですけど、取り留めがないんですよね。そこにこのユニットを入れて、柱越しに向こうの空間や状況が見えたり、同じ家の中でそういうのがあるっていうのは広がりが感じられるし。


― ユニット自体には、昔の茶室みたいな雰囲気もありますね。

洋文:そうですね。昔の日本の家は建具で仕切りたい時に仕切って、普段は開けてる、みたいな使い方をしてたので。今おっしゃってくれたように、東南アジアとか、風を通して気持良さがある家の造りとコンセプトは似てるのかもしれませんね。

りつこ:冬にはフレームの上に紙で出来たハニカム構造の天井を載せて、横はふすまや布で囲んでユニットを閉じた空間にできるようにも想定しています。



収納の少なさが、「持たない暮らし」のきっかけに


― 収納についてはいかがですか?

洋文:自分で設計したときに、最初から収納が少ないぞというのは気付いてたんですけど、押入れにけっこう余ってるスペースがあったりして、あまり最初から収納を多く設定しておくよりは、少なく設定しておいたのが良かったなって思いますね。

りつこ:なんだ、すごい収まってるやん~みたいなね(笑)。

洋文:「この空間に入れる」と、物を減らさないと生活空間にはみ出てくるから、それに合わせて持ち物を再考できるいい機会でもありましたね。

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― 元々、物はあまり増やさない方なんですか?

洋文:最初はやっぱりそんな感じでやってたこともあったんですが、最近はやっぱりやめようと思って。

りつこ:だいぶ考えてますね。でも、考えても増やしちゃう時ってけっこうあるんですよね。「なんでこんなもの買ったんやろう?」みたいな(笑)。


― 何となく、りつこさんの方がその辺のこだわりが強いのかな、っていう印象を持っていたんですけど。

洋文:どっちかと言えばそうやで、たぶん。

りつこ:そう!?

洋文:彼女が借りてくる本で「あ、こんなん自分では選ばれへんな」みたいな本があるんですよ。そういう本を読んでみると、考え方に影響を受けてるんですよ。
 例えば一方は物をばんばん買って、一方は減らそうとしても、無理なんで。maruに引っ越してくるのは良いきっかけになりましたね。最初からモデルルームにするというのもあったし、自分たちのすまいでもあるわけだから、きっちりと住みたいなっていうのもあって。

りつこ:自分の家の平米単価を考えたら、その1平米にいらんものを突っ込んでおくことがムダ!みたいな(笑)。


― その考え方は無かったです(笑)。

洋文:だってね、一年に何回も使わへんようなものを、大事に置いておくわけですよ。もったいないなあって思います。



オープンハウスと住み開きのこと


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― モデルルームが出来たあと、最初のオープンハウス(見学会)をしましたよね。あの時のお客さんの反応ってどうでしたか?

洋文:結構、数は来てくれはったんですよね。同じマンションの人が多かったですけど。

りつこ:皆さん、入ってきた時に一番最初に言われるのは、「木っていいよね」というリアクションでした。

洋文:そういう感想が一番多かったですね。匂いがいい、とか。

りつこ:「こんなん、できんねや!」みたいなね。同じマンションで、こんな風になるの?みたいな驚きとか。逆に一番みんなが食い付かなかったのが、フレーム(すまいユニット)が動くところ(笑)。皆さん、動かせるなんて想定外みたいで。


― 逆に、レイアウトを変えられる仕組みに気付かれないぐらい自然だったとも言えそうですね。

りつこ:動かせるって聞いたら、皆さんびっくりされるんですけどね。


― ユニットを動かす時は、どんな流れになるんですか?

洋文:まず、畳とその下の合板を取ると、柱と横材だけになるんですよ。その状態になると、底に滑りやすくするテープを貼っているので、持ち上げるというより、二人ぐらいで押すと滑らせられます。


― 工事の人を呼ばないといけないと思ってました。

りつこ:動かす前に畳を上げたりするから、男手が一人はあった方がいいですね。

洋文:そういうときは間取りの相談も受けられるから、連絡してもらえると対応できますね。あとは、風が通り抜けるように、ユニットの天井に隙間を開けてる部分なんかも気付いてもらえなかったので、オープンハウスに来られる方はそこにも注目して欲しいですね。

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― 最後に、このページをご覧頂いている未来のお客さんにメッセージをお願いします。

洋文:maruに興味を持って頂いてありがとうございます。古いマンションを買ってリノベーションをすると、土地を買って戸建て住宅を建てることに比べて安くつきます。それに加えてmaruは素材の選択肢や空間のつくりかたを単純化することで、より経済的になるよう工夫しています。
 さらに、お金のことと同様に大事なことは、こうした工夫が居心地の良さにつながり、住み手のライフスタイルを受け入れ、より良く暮らせる空間であることだと考えています。そこのところは是非モデルルームにいらして判断してみてください。素材の味わいや動かせる間取りを楽しみながら、あなたのすまいとしてmaruを育てていって欲しいと願っています。

(2014.9.8 maruモデルルームにて)


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